ホントは―前編―
 雲ひとつない快晴の空。
 頬を撫でる風は涼しく心地よい。
 てくてく歩くには本当によい環境だ。
 それでも、あたしは何だか居心地が悪かった。
 ふぅ
 息を吐いて高くなった空を眺めてみたりして。
「どーした、リナ?腹でも減ったのか?」
 斜め後ろからのんびりのほほんとした声が掛かってきた。
ぴきっ
 あたしの米神に青筋が浮く。
「違うわよ。」
 否定の声は我ながら低かった。
「えー、違うのか?じゃあ・・・おおっ。」
 何を思いついたかガウリイ君はぽんっと手を叩いた。
「分かった。リナ、あの日だろ?」
「違うわぁあ!!このデリカシー絶滅男ぉっ!!!!!」
すぱこーんっ
 乙女の必需品が閃き、
「いてぇええ!!」
ガウリイは頭を抱えてしゃがみこんだ。
ふんっ、ホントはよけられるクセに!!
 あたしは彼に背を向け、さっさか歩き出す。
「待てよ、リナ〜。」
 背後からの情けない声は無視!!
 ガウリイはケダモノ並みの反射神経を持っている。たまーに、油断することはあるかもしれないが、あたしの攻撃なんか多分簡単に避けられるに違いない。
 なのに、わざわざ殴られるなんて馬鹿じゃないだろうか。いや、実際馬鹿だけど。
ふぅ
 あたしの口から、また勝手に溜息が出てきた。
 馬鹿だと思ってたのよねぇ・・・。脳ミソがスケルトン並みで剣術しか能のない男だと・・・。
 ああ、いや、そりゃあ、戦闘のときは本当に役に立つし、たまにいいこと言うし、まるっきり馬鹿だと思ってたわけじゃない。救いようのないヤツなら、とっとと見捨ててる。

 でも、実は、ガウリイはあたしが思っているのとは全然違うのかもしれない。

 あたしは最近、これで悩んでいた。
 きっかけは彼の『実家へ行こう』発言からである。何だかミョーに押しが強くて、人の言葉尻捉えるなんて高等技術使って、あたしを実家――つまり、ゼフィーリアへ案内させている。
 ふと、思った。
 こいつ、全部分かってやってるんじゃないか、って。
 本当はいつも分かっててボケてくれてるのかもしれない、あたしが動きやすいように。
 そう思って振り返ると、結構引っかかることが出てくる出てくる。

 礼儀正しい態度取らせたらサマになること。こーゆーとき、よく考えると、彼は難しい言葉を駆使していた。
 意外と鋭い指摘を稀にすること。野生の勘といえば、そうかもしれないが、直感というのは経験の積み重ねによって生じるものだと聞いたこともある。
 あたしを・・・慰めてくれたこと。経験の違い、だろうか。彼の言葉はあたしに届いて、あたしに立ち上がる力をくれた。

 今まで旅してきた3年間を振り返ると、思い当たるフシが多いことに驚いた。
 ホントは全部分かっててやってるの・・・?
 改めてそう思ったとき、最初に沸いてきたものは怒りに近かったかもしれない。
 裏切られたような気がしたのだ。
 ガウリイがボケて、あたしが突っ込んで。脳ミソくらげなガウリイをあたしが引っ張って。いいコンビだと思っていたのだ。彼は"自称保護者"なんて言ってるけど、たぶん、対等な関係だと。お互い、補いあっていると。
 でも、彼が全部分かっててやってるなら。素顔をあたしに見せていなかったのなら。
彼はあたしを信用してないってことなんじゃないかって。
 あたしは信用してるのに・・・。

 次に沸き起こったのは悲しみだった。
 彼が素顔を隠していたのなら、悪意あってのことなわけがない。
なんせ、最初にあたしをお子様扱いして保護者を名乗り、そのまま魔王とまで戦ったお人よしだ。
理由あってのことだろう。
 ならば、その理由とは?
 考えて出てきたことに、悲しくなったのだ。
 彼は『保護者』を自称している。ならば、理由も『保護者』なのかもしれない。
 子どもを教え導くとき、教える立場にあるものは、わざと分からないフリをしたり、わざと間違ったフリをしたり、そうして自主的に解決できるようにするものだ。そうして、答えに辿り着くまで、優しく見守り、ときには、突き放す。
 ガウリイはまさにそれをやっていたんじゃないだろうか。
 ということは、あたしは彼にとって対等な者なんかじゃない、ただのお子様、だったのだろう。
 言いようのない悲しみがあたしを襲った。
 


 リナの悩み、鈍感というより、考えすぎな感じで。(2005 5/12)