ま外伝―あたたかい腕―

 赤々とした焚き火を見詰め、リナは身を震わせた。
 寒い。
 野宿するにはまだ冷える季節だが、次の街までは後半日の距離があり、野宿を免れることはできなかった。
 毛布をかき寄せ、自らの肩を抱く。
「リナ、さむいのか?」
 唐突に掛かった声に、リナは顔を上げた。
 横たわった地面から目を上げているのは、つい最近一緒に旅をすることになったガウリイである。
 見た目は逞しくも均整のとれた体躯の美丈夫なのだが、その中身は幼児に近い。おまけに世間知らずで危なっかしい。だが、それも仕方のないことで、彼は両親亡き後、山の中独りで生き、山の麓の村民からは魔物と呼ばれていたのだ。極端に他者との接触が少なかったのである。
 蒼く輝く邪気のない瞳がリナを真っ直ぐに見詰めている。
 リナは微笑んだ。
「ま、寒いけど、大丈夫よ。交代までまだあるから、ちゃんと寝てなさい。」
 先に見張りを買って出たリナはガウリイに眠るよう促す。
 しかし、ガウリイはむくりと起き上がった。彼の動きに合わせて金色の髪がさらりと流れるのに、ついリナは見蕩れた。中身が幼児と分かっていても見た目は極上の男なのだ。
 ガウリイは野生の獣のように優雅だが隙のない動きでリナの背後に動くと、リナを足の間に挟むようにして座り込んだ。
「ぅええっ!?」
 ガウリイの動きに見蕩れていたリナが我に返る。
 驚くリナの肩を背後から伸びた逞しい腕が抱きしめ、ともに毛布に包まれる形になる。
「リナ、やっぱ小さいなぁ。」
 密着し温かい熱の伝わる背中から、低い声が響いてくる。
 ぞくりと身を震わせたが、リナは必死で平静を保とうとした。
「小さい言うなっ!ていうか、何してんのよ?」
 不機嫌を装うリナの声に、背後のガウリイが小首を傾げた気配がした。きっと彼は間違いなくきょとんとしているのだろう。そう長くない付き合いだが、その表情が見たように目に浮かぶ。
「えっと、リナ、イヤか?あったかくないか?」
 不思議そうに尋ねられて、リナはぐっと言葉につまった。
「イヤとかじゃなくて、その、そりゃぬくいけど・・・。」
 いたたまれないのだ。恥ずかしくて暴れたくなる。
 リナは上手くガウリイに説明できる自信がなくて、言葉を飲み込んだ。
 この微妙な乙女心を脳みそ幼児男に理解しろと言うのが無理だろう。
「ぬくいだろ?」
 言葉を額面通りに受け取ったガウリイが、我が意を得たりと頷いた。
「オレもさ、小さいころ、母様とか父様にしてもらったことがあるんだ。」
「あたしはちっちゃいオコサマってわけっ?」
 険を含んだ突っ込みに、ガウリイがふるふると首を振った。リナの首に流れていた金髪がその動きに揺れて少しくすぐったい。
「ちがうぞ。えっとな、少し大きくなったらしてくれなくなって、でも、父様は母様にしてたんだ。お前も大きくなったらおよめさんにしてあげたらいいって言われたんだ。」
 なんてらぶらぶな夫婦だったのだろうか、いや、駆け落ちするくらいだから当然か。
 軽い頭痛を感じながら、リナはガウリイを説得することを諦めた。リナはガウリイの両親からの教えに滅法弱い。彼の綺麗な思い出に口をはさみたくないのだ。もちろん、その諦めた理由の一部に、温かい腕に離れがたいものを覚えたというのもあるのだが。
 リナは小さく息を吐くと、身体の力を抜き、温かい身体に寄り添った。
「あったかいわ、ありがとね。」
「オレもあったかい。気もちいいな、こうするの。」
 嬉しそうな声が返ってくるので、リナの頬は赤く染まった。
 恥ずかしいものの、あまりの居心地のよさに眠くなりそうだ。
 そこまで馴染みながら、リナははたと気づいた。
「ガウリイ、言っとくけど、これは特に寒い日の野宿であたしたち2人しかいないときしかしちゃダメだからね?」
「ぇえっ!?なんで?」
 不満げな声にリナは言っておいてよかったと思った。
「所構わずしていいはずないでしょっ。こういうのは他人様に簡単にみせちゃダメなのよ。」
 道端で後ろから抱きしめられる図を想像してしまい、リナは真っ赤になって強い口調で言った。
「気もちいいのに。」
「ダメなものはダメ。」
 納得していない様子のガウリイに不安を感じ、リナは身体をねじって彼の顔を見上げた。
「人前でしたらダメだからね。」
 睨みあげると、蒼い綺麗な瞳が細まった。
 目の前が少し暗くなる。
 長いガウリイの前髪がリナの頬にかかった。
 柔らかく重なった唇が、優しい熱を伝えてくる。
「わかった。」
 唇を離してからにこにこ微笑むガウリイに、リナはこれ以上内程真っ赤になり、身体を前に向けた。
「それも人前では禁止だし。」
「おう。」
 嬉しげなガウリイの声に、リナは小さく息を吐いた。
 脳みそ幼児な男にひたすら負けている気がした。


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まVer.だと、こんなに甘々に・・・。
まガウ効果おそるべしです。(2006.12.19)