ま外伝―聖夜祭1―

「なぁ、リナ、くりすますって何だ?」
 赤や緑に彩られ浮き立つ街を歩いていたガウリイは、少し先を進むリナに問いかけた。
 山を降りてから数ヶ月、まだまだガウリイが知らないことがたくさんある。
 尋ねればたいていリナは説明してくれる。彼女が使う言葉はときどき難しいけれど、分からないと言えば、分かるように説明してくれる。
 一緒にいるのがリナで本当によかったとガウリイは思っていた。
「ん、ああ、クリスマス、ね。明後日だっけ。神様の誕生日よ。それをお祝いする日なの。特に前夜祭に豪勢にお祝いするのが一般的かしら。」
「ふ〜ん。」
 ガウリイは頷いて、楽しそうに歩く街の人々を眺めた。
 あんなに楽しそうなのは、とっても神様が好きだからだろうか。
 いまいちピンとこなくて、ガウリイはひとり首を傾げた。
「ガウリイ!」
 声をかけられて、びくりとすると、いつの間にかリナは大分先まで行ってしまっていた。
「あ、すまん。」
 ガウリイは待ってくれているリナの元へと駆けて行く。
「も〜、ガウリイがぼーっとしてるのはいつものことだけど。人が多いからはぐれちゃうわよ?」
「うん。」
「あたしが魔道書見てる間別行動だけど大丈夫?」
「おう、がんばる。」
「道がわかんなくなったら、誰かに魔道士協会の場所を尋ねるのよ?」
「おう。」
「本当に大丈夫かしら・・・。」
 この街には聖夜祭を含めた本日より3日間限定で魔道書が公開されることになっており、それ目当てでリナはここに来ていた。
 魔道書を見ている間、ガウリイはすることがないので別行動になる。
 最近、なんとか別行動がとれるようになったガウリイだが、まだまだ常識には疎いので、リナとしては不安が残る。
 でも、獅子はわが子を千尋の谷に突き落とすし、可愛い子には旅をさせろ、っていうし・・・。
 リナの綺麗な紅い瞳が心配そうに細められた。
 それを見て、ガウリイは少し嬉しくなった。
 リナが自分を気に掛けてくれている証拠だからである。
「大丈夫だから、リナはまどーしょ見ててくれよ。」
「うん。」
 ガウリイの発音に些か不安が増長されたものの、リナは頷いた。

 リナと魔道士協会の前で別れたガウリイは街をゆっくりと歩いていた。
 人がたくさんたくさんいて、驚いてしまう。
 ああ、世界は広いんだな〜。
 連れ出してくれたリナに感謝しながら街を歩き、お腹がすいてきたのでふらりと食堂に入った。 
「いらっしゃ〜い、あら、いい男だねぇ。」
 迎えてくれた恰幅のいいおばちゃんが嬉しそうに笑った。
「ど〜も。」
 褒められたようなので、ガウリイはぽいぽりと頭をかいた。
 料理を10品頼んでぱくぱく食べていると、感心したようにおばちゃんがやってきた。
「これも食べていいよ。サービスだ。」
 おばちゃんがもってきてくれたのは筒のような形のケーキだった。
「クリスマスケーキの試作品なんだけどね。」
 ちょっと照れたようにおばちゃんが笑う。
「へぇ〜、くりすますはケーキも食うんだな。」
「当たり前じゃないかい。にいさんも恋人にせっつかれてんじゃないのかい?」
 のんびりしたガウリイにおばちゃんはちょっと呆れ顔になった。
 その表情にガウリイは困った顔で笑った。
「あ〜、オレ山育ちで、よく分からないんだ。なぁ、教えてくれないか?くりすますって何をするもんなんだ?」
 リナの説明では珍しく納得いかなかったので、ガウリイはいい機会だとおばちゃんに質問してみた。
「知らないなんて随分田舎から出てきたんだね〜。何をする、ねぇ。まあ、あれだ。神様の誕生日は誕生日なんだけど。家族とか大事な人と過ごすことが多いよ。若者は恋人とお洒落してディナーにいくとか、そうそうプレゼントを交換しあったりとかね。あとは〜、宿り木の下の女の子にはキスしてもいいとか、かね〜。やだ、何言わせるんだよ〜、にいさんはっ。」
 おばちゃんはひとりで照れて、ガウリイの背中をばんばんと叩いた。
「いてててて、あ、ありがとな、おばちゃん。」
 お礼を言ってガウリイは何となく納得した。
 くりすますは特別な大事な人と過ごすお祝いの日なのだ。
 結論づけたガウリイはにっこりと笑った。
 ガウリイにとって、特別で大事なのはリナである。
「リナとお祝いしたいなぁ〜。」
 思わず声に出すと、おばちゃんが目を輝かせた。
「なんだ、にいさん、いい人いるのかい?じゃあ、こんなとこでぼんやりしてちゃダメじゃないかっ!」
「え、そ〜なのか?」
「そ〜だよ!プレゼントに、お店の予約に、すること一杯あるだろう!」
「あ、でも、オレ、そ〜いうのあんまし得意じゃあ・・・。」
「そんなんじゃ女の子は逃げちゃうよ。」
「それは困る!」
「じゃあ、私が手伝ってあげるよ!」
「すまん、頼む!」