ま外伝―聖夜祭2―

 リナが魔道士協会の図書室から出ると、沈みかけた日が街を赤く染めていた。
「けっこう長くかかっちゃったわねぇ。」
 長時間の読書で凝った肩を手で軽くほぐしながら出口に向かう。扉を開くと、赤く輝く金色が目に飛び込んできた。
「あ、リナ!」
 協会入り口の石段に座っていたガウリイが、ぱっと振り返った。
 きらきらと輝く蒼い瞳がリナを出迎える。
 一直線に注がれる喜びの感情に照れるものを感じつつリナは首をかしげた。
「だいぶ待った?」
「いや、さっき来たとこだ。」
 にこにことガウリイが首を振りながら立ち上がった。
「腹減った〜。今日はどこで食うんだ?」
「ん〜、宿に向かいながら決めましょ。」
 リナが歩き出すと、ガウリイもそれに従う。
 ついてくる足音がどことなく弾んでいる気がして、リナはガウリイを振り返った。
 金髪蒼眼の美形青年は無邪気な表情でうきうきと歩いている。
 その様子は非常に微笑ましい。
「ご機嫌ね。」
 微笑んで言うと、ガウリイは大きく頷いた。
「すっごく楽しみだから!」
 この返答にリナは首を傾げた。
 言語能力に長けていないガウリイは今回は主語を抜かしてくれている。
「何がそんなに楽しみなの?」
 疑問を解消すべく問いかけると、ガウリイはにこにこと口を開く。
「くりすます。」
「クリスマス?えと・・・。」
 リナは少し戸惑った。
 ガウリイが楽しみにするような話をした記憶はない。
「明日も一緒に晩ご飯食べるよな?」
 リナの戸惑いを余所にガウリイが言を紡ぐ。
「ええ、そりゃそのつもりだけど・・・。」
「あのな、くりすますのお祝いしたくて、おばちゃんに手伝ってもらってお店の・・・え〜と、そうそう、よやくしたんだ。」
 嬉しそうなガウリイの言葉に、リナは目を見開き、ついでに目指していた食堂の前だったので足を止める。
「それはどーゆう・・・、とにかく中に入りましょうか。」
 リナはガウリイを促し、食堂の中に入った。
「おっちゃ〜ん!とりあえず、料理メニューの上から下まで2つずつ!」
 リナは料理を注文してから再度質問する。
「ねぇ、ガウリイ。まず、『おばちゃん』てどこの誰?それから、予約って?」
 にこにことガウリイは答えた。
「えっとな、昼ご飯のときの食堂のおばちゃんが色々教えて手伝ってくれたんだ。で、くりすますでぃなーを食べれるお店のよやくをしてくれたんだ。だから、リナ、明日はキレイなかっこしてご飯食べような?リナ、キレイな服持ってるよな?」
「ドレスはあるけど・・・。しかし、そのおばちゃんってまたお節介な・・・。」
 呆れた顔でリナは呟いた。
「あ、ねぇ、ガウリイ。お金はどうしたの?ンなに現金渡してなかったわよね?」
 ガウリイの財産はほとんどリナが管理している。その内、自分でさせる予定だが今はまだ生活に困らないだけの現金をリナが渡している状態である。
「ああ、母様の宝石を売った。」
「えっ?」
 事も無げに言うガウリイにリナが目を見開いた。
 山を降りるとき、持ち出せるものの中で貴金属があった。大多数は売って現金化したのだが、形見用に幾つかと、お金に困ったとき用に幾つかをガウリイに持たせていたのだ。
「ちょっ、どれを売ったの!?」
 いきなり鬼気迫る表情で言われて、ガウリイがびくりとした。
「え、えと・・・、翠の・・・エメラルド?を真珠でかこったネックレス・・・。」
 ガウリイに持たせた中では中くらいの価値のものだが、確かにあれを売ればかなりの金額になるだろう。
 ぼったくられたのではないかと心配したのだが、1つしか売っていないのなら大丈夫だろう。食堂のおばちゃんの人のよさに感謝である。ガウリイの世間知らずぶりなら利用されてもしょうがなかったのに。
「なぁ、リナ・・・。もしかして、くりすますイヤだったのか・・・?」
 不安そうに声を掛けられて、リナははっとガウリイを見た。
 しょんぼりとした蒼い瞳がリナを見詰めていた。
「あ、違う違う。ちょっとびっくりして心配しただけよ?人に手伝ってもらったにせよ、お店の予約までしたなんてエライわね。でも、なんでまたクリスマスのお祝いをしようと思ったの?」
 少し褒められたガウリイは顔を輝かせ、にっこりと笑った。
「くりすますは家族とか、大事な人、特別な人とお祝いするんだろ?オレにはリナが家族で大事で特別な人だからな。」
っかぁああああ
 リナの頬が赤く染まった。
「そ、そう・・・、ありがと。」
 無邪気な好意は凶器だ。
 リナはぱたぱたと頬を手で仰いだ。