ま外伝―聖夜祭3―

「リナ、ずっげぇ、きれいだ。」
 宿の前で待っていたガウリイは破顔して言った。
 ドレスアップしたリナが頬を染める。
 リナは以前ガウリイに贈られた水色の絹から仕立てたカクテルドレスを纏っていた。ふわりと広がった裾からほっそりと伸びた脚には華奢なハイヒール、むき出しの細い肩には銀色のショールを羽織っている。白く儚い首には一連の真珠のネックレス、アップにした栗色の豊かな髪にも真珠が散りばめられていた。
 道行くどんな女性よりもリナが一番キレイだとガウリイは思って嬉しくなった。
 ガウリイは黒地に銀色の刺繍の施されたスペンサージャケットを着ていた。一本に束ねられた金髪が黒によく映える。また、その剣士として鍛え上げられた逞しい体躯と腰の剣が、綺麗なだけではない危うい魅力をかもし出している。
 顔を見れば気が抜けちゃうんだけどね、と、外見を裏切る純粋な蒼い瞳にリナは微笑んだ。
「じゃあ、行こう。」
 ガウリイが自然に差し出した腕にリナは手を乗せた。
 エスコートが自然に身についているのは両親の教育の賜物だろう。
 ガウリイが食堂のおばちゃんに書いてもらっていた地図を見て方向を指示しながら、リナはひとり頷いた。
 やがてついたレストランはこじんまりとしているが、暖かな雰囲気の場所だった。
 案内されたテーブルで向かい合って座り、キャンドルの火を見詰める。
 ゆらゆらと踊る炎が互いの瞳に揺れていた。
「雰囲気いいとこね、ここ。」
 リナが満足そうに笑みを浮かべる。
「ああ。」
 ガウリイは頷き、嬉しそうに笑う。
「ご飯もすごく美味しいらしいぞ。」
「食堂っていういわば同業者が薦めるんだから確実よね。」
 語っていると、やがて料理が運ばれてきた。
「あ、ガウリイ。今日はヒトのお皿に手を出しちゃダメよ。」
「え、なんでだ?」
「行儀が悪いから。」
「でも、いっつもは・・・。」
「ダメなものはダメなの。今日はゆっくり食べましょ。」
「うん・・・。」
 リナの指示にガウリイは寂しそうに頷いた。
 その様子にリナがちょっと表情を和らげた。
「せっかくガウリイが予約してくれたんだもの。ちゃんと味わいたいのよ。」
「おう!」
 リナの言葉にガウリイは元気な声を上げた。
 リナは少し微笑んでから、スープにスプーンの先を浸した。


 珍しくゆったりとした食事を終え、レストランを出る。
 アルコールで少し火照った体には外のひんやりとした空気も気持ちよい。
 差し出される逞しい腕につかまりながら、リナは目を細めた。
 寄り添う温かさも心地よい。
 さらりと髪が滑る音がして、蒼い瞳が覗き込んできた。
「リナ、酔っ払っちゃったのか?」
 ガウリイは食前酒を一口飲んだだけであるから、酔いとは無縁だ。
 リナは微笑んで首を横に振った。
「大丈夫よ。ほんの少し足元ふらつくけど、ガウリイが支えてくれてるし。1杯しか飲んでないからすぐに酔いはさめるわ。」
「そっか。じゃあ、も少し外歩いても大丈夫だよな?」
 ガウリイが安心した顔をして笑った。
 リナは首を傾げた。
「なに?どこか行きたいとこでもあるの?」
「うん。行っていいか?」
 具体的な場所は聞けなかったものの、ガウリイがにこにこしているので、リナは頷く。
「うん。いいわよ。」
 お許しが出たので、ガウリイは嬉しそうに歩き出した。

 魔法の灯りで夜の石畳が艶やかに輝く。
 冷たい空気が隣の暖かさを求めさせる。
 見上げると、澄んだ夜空を背景に精悍でいながら美しく整った青年の顔。
 顎のラインの鋭さや、ごつごつした喉仏はリナとは全く違うものだ。
 ぼんやり眺めていると、ガウリイがリナを見下ろした。
「ん?どーしたんだ、リナ?」
 温かく優しい瞳は昼の青空。
 無邪気に澄んだ色にリナは微笑んで首を振った。
「なんでもないわ。」
 リナは視線を前に戻しながら、もう少しガウリイの身体に寄り添ってみた。
 リナが全体重を預けたとしてもびくともしないだろう青年の身体と、その持ち主の無邪気な瞳のギャップは結構激しい。
 そんな今更考えるまでもない事実が可笑しく、ほんとうにちょぴっとだけ寂しい。