ま外伝―聖夜祭4―

 どきどきどきどき・・・
 心臓の音が耳にまで木霊している。
 夜風は冷たいはずなのに、それが心地よい程に身体が熱い。
 ガウリイは緊張していた。
 傍らに寄り添ってくれている少女の柔らかさを意識すると、ますます鼓動が速くなってしまう。
 穏やかな表情で傍にいてくれるリナ。
 なんて幸せなんだろう。
 リナがほんとうに大切だ。
 どきどきしつつも、にこにこと笑みが収まらない状態で歩く。
 目的の場所を見つけて、ガウリイの緊張はさらに高まった。
「あ、あれ綺麗ね〜。」
 リナが楽しそうな声をあげた。
 細い指先が示すのは、魔法の光で彩られた並木道だった。
 街路樹に小さく淡く輝く光が灯され、幻想的な空間を演出している。
 リナはガウリイを見上げた
「もしかして、行きたい場所ってここ?」
「うん、今夜はここが綺麗だって教えてもらったんだ。」
 ガウリイは頷いた。
「そっか。うん、ほんと綺麗ね〜。」
 リナは目を細めて輝く並木道を見詰める。
「せっかくだから、通らないとね。」
「おう。」
 リナがガウリイの腕から離れ、小走りに輝く並木道へ向かう。
 温もりが離れたのは寂しいが、リナの表情が輝いているのでガウリイは嬉しくなった。
 並木道の半ば程で、ガウリイははたと立ち止まった。
「ガウリイ?」
 リナも立ち止まり、不思議そうにガウリイを見上げてきた。
「あ、あのな、リナ。えっとな、んと、たぶん、こっち。」
 ガウリイはリナの手を掴んで並木道の途中の曲がり角を曲がった。
「え、何?ガウリイ。まだ光るとこ続いてるわよ?」
 リナが少しだけ不満そうに聞いてくる。
「あ、うん。そーなんだけど。えっと、教えてもらったことがあって。」
 リナは怒らせると怖いので、ガウリイはちょっとだけ焦った。
「ふぅん?ま、いいわ。ガウリイ、今日はがんばって色々覚えてるみたいだし。」
 ちょっとだけ目を煌かせて、リナが笑った。
「でも、期待はずれだとスリッパね(はぁと)」
「お、おう。たぶん、だいじょうぶなはずなんだけど・・・。」
 ガウリイは、どきどきに少しだけびくびくを混じらせた。
 

 通りを抜け、さくさく歩いていく。
 建物の間を通り抜けていくと、突然、視界が開けた。
「へぇ・・・。」
 思わずといった感じでリナが声をあげた。
 建物と建物の間に出来たそう広くもない空間に一本の大きな樅の木が立っていた。
 広がり茂る葉にはいくつものリボンが結ばれ、数個の魔法の光が淡く輝いている。
 樅の木に見蕩れるリナにガウリイはにっこりと笑った。
「えっとな、ここも教えてもらったんだ。えと、穴場らしいぞ。」
「そーなんだ。でも、ガウリイ。よく道順とか覚えてたわね。すごいじゃない。」
 褒められるところがなんだかズレているような気がしたが、褒めてくれたのが嬉しくて、ガウリイは頷いた。
「おう、おばちゃんがリナを連れてったら喜ぶって教えてくれたからがんばった。」
 誇らしげに言うガウリイにリナはにっこりと笑った。
「ええ、すごく嬉しいわ。すごく綺麗だもの。でも、こんな建物の間によくこんな立派な木が育ったわね〜。」
 リナは木に近寄り、その幹をぽんぽん叩いた。
 ガウリイも彼女の傍まで行く。
「うん、山の中じゃめずらしくないけどなぁ。こんな狭いところでよく育ったよなぁ。」
 しばらく前までの棲み家だった山を思い出し、ガウリイは目を細めた。
 リナがくるりと振り返った。
 その動作にあわせて栗色の髪がふわりと舞い、甘やかな香りがガウリイの鼻腔をくすぐった。
 紅い瞳がガウリイを見上げる。
「山が懐かしい?」
「少しだけな。父様と母様のおもいであるし。でも、今はリナがいるから。」
 にっこりと笑いかけると、リナの頬が赤く染まる。
「リナのそばが一番いい。」
 リナがさらに真っ赤になる。
 かわいいなぁ。
 ガウリイは幹に片手をつき、屈み込んでリナに口接けた。
 小さな唇は柔らかくて、どこか甘かった。
「ガウリイ・・・。」
 真っ赤な顔で口を抑え、リナがガウリイを睨んだ。真っ赤な顔で睨んでくる彼女は何だかものすごく可愛い。
 ガウリイはにこにこと上を指差した。
「あれ、やどりぎだろう?」
「え?あ・・・そ、そうね。」
 リナは戸惑いながらも頷く。
「やどりぎの下では女の子にキスしていいって聞いたんだ。」
 ガウリイがにこにこして言うと、リナは呆気にとられた表情をした。
「あ、あ〜、まぁ、そんなとんでもない話はあるにはあるわね・・・。・・・ったく、んなことに記憶力発揮しなくても・・・。」
 俯き、ぶつぶつ言うリナに、ガウリイは少し心配になった。
 これなら約束いはんじゃないと思ったのに、ダメだったのだろうか。
「リナ・・・。おこったのか?」
 不安そうな声に、リナは顔を上げ、それからちょっと笑った。
「怒ってないわよ。ま、ガウリイだしね。」
 仕方ないかな。
 そう呟くリナの顔は、もういつもの表情だったので、ガウリイは妙に寂しくなった。もう少し可愛い顔を見ていたかった。 
「で、な。リナ。」
 おずおずとガウリイは切り出した。
「なに?」
「がんばってかんがえたんだけど、プレゼント思いつかなくて・・・、だから・・・。」
 ガウリイは俯いた。
 食堂のおばちゃんは、心がこもっていれば何でもいいんだ、と言ってくれたけれど、いいプレゼントが思いつかなかった。
 すごく大事ですごく大好きなリナに、何をあげたらいいのか分からなかったのだ。
 だって、ガウリイが知っているリナの好きなものは、まどーしょとか盗賊とかおいしいご飯とかだから。これらをくりすますのプレゼントとするのは、何だか違うとさすがにガウリイにも分かったのである。
「何言ってんのよ、ガウリイ。」
 リナの明るい声に、ガウリイは顔を上げた。
 リナは笑顔でガウリイを見上げてくれていた。
「あたし、プレゼント、たくさんもらったわよ?」
 にっこり言われて、ガウリイは首を傾げた。
「え、でも・・・。」
 戸惑うガウリイにリナが笑いかける。
「レストランでのディナーに、並木道、それにこの綺麗な木、あと、キスも。」
 リナは少し頬を染めて、自分の唇をちょんっと指差した。
「何より、あたしを喜ばせようと、一緒にお祝いしようとしてくれたでしょ?その気持ちが一番のプレゼントよ。」
 紅い瞳を煌かせ、満面の笑みで言ってくれるリナにガウリイは見蕩れた。
 リナの細い手が伸びて、ガウリイの髪を優しくひっぱった。
「いてっ・・・。」
 ガウリイは少し前屈みになる。
 すごく近い位置でリナが微笑む。
「ありがと、ガウリイ。」

ちゅっ

 軽い音を立てて、リナがガウリイの頬にキスをした。
「あたしからのクリスマスプレゼントよ。文句は聞かないからね。」
 リナはぱっとガウリイから離れると、くるりと背を向けてすたすたと歩き出した。
「もう宿に帰るわよ。」
「お、おう・・・。」
 ガウリイはまだ柔らかな感触の残る頬にそっと手をあてた。
 頬とはいえ、初めてリナからキスしてもらったということに、ガウリイの心臓がばくばくいいだす。
 よく分からないけれど、ものすごく幸せな気分になる。
 くりすますっていいな。
「まってくれよ〜、リナ〜。」
 幸せな気分で、ガウリイは小さな背中を追いかけた。

(終わり)


 筆散らしに書いたものをつなぎ目をほんの少しだけ修正してアップしました。
 まガウはかわいいなぁ。(2006.12.24)