名案―中編―
 既に日は落ち、暗くなった通りをリナは苛々しながら歩いていた。
 宿を見つけた後、町を散策し、夕食をとったのだが、なんと1人前しか食べられなかったのだ。
 おまけに、虫よけになっていたガウリイがいないからだろう。馬鹿っぽい男たちが夕方辺りからやたらと声を掛けてくる。
 見る男、見る男、馬鹿っぽいし、弱い。
 ガウリイはのほほんとしていたが、偶にはいいことも言うし、こちらがたじろぐほど鋭いときもあった。腕っ節のほうは言うまでもない。
 いつまでも、ガウリイに囚われているのが悔しくて、リナは苛立ちを募らせていく。
 そんなリナにまた一人の男が近づいた。
「ねぇ、キミひとり?」
 笑みを浮かべる男は、やっぱり強そうではなかったけれど、今まで声を掛けてきた男の中では一番顔がよかった。
 黙って男の顔を見ていると、自分に見とれているとでも思ったのか、男はさらに笑みを深めて話しかけてきた。
「よかったら、オレと軽く飲まない?カクテルのうまい店知ってんだけど。」
 リナとて、男が酒に誘う理由が分からないわけではない。酒の後に何がくるかも一応分かっている。
 普段のリナならナンパ男をへち倒して終わりだっただろう。
 だが、リナはいい加減ちらつくガウリイの面影に苛立ちも頂点に達しようとしていた。
 だから、一夜の関係もいいかもしれない、と思った。
リナは笑った。
「それもいいかも、ね・・・。」
 いろんな男を知って、経験を積んでもっといい男を探して。いい男がいなければ、別に一人でも生きて行けるし。人生楽しんだもの勝ちなのだから。
 リナの笑みにナンパ男は力を得て、彼女の腕を馴れ馴れしくとった。
「じゃ、いこうか。オレ、ビリーってんだ。キミは?」
「リナ、よ。」
 自分の名前に怯えるようならはっ倒すと心に決めながら、リナはにこりと笑った。
「へぇ、かわいい名前だね。」
 予想に反して、ビリーはリナの名前を知らなかったらしく、適当に褒めてくる。
「もちろん、名前なんかより、キミの方がかわいいけど。」
 笑ってしまいそうな台詞を吐きながら、ビリーの視線はリナの身体を舐めるように眺めた。そして、またリナの予想に反して、ビリーの目に明らかに欲情めいたものが浮かんだ。
 リナは少し顔を顰めた。
 腕をもっているビリーの手が何だか嫌だ。
 絡み付く視線も何だか嫌だ。
 やっぱりふっ飛ばしちゃおうかな。
 リナが視線を向けると、ビリーは自分ではカッコいいと思っているらしい笑みを向けてきた。
 その笑顔も何だか馬鹿馬鹿しくて、リナは呪文を唱えようとした。

「リナ。」

 掛けられた声にリナは思わず足を止めてしまった。
「あんた、誰だよ?」
 先に振り返ったビリーが不審そうな声をあげる。
「オレか、オレは・・・・。」
 嫌というほど馴染んだ声が紡ぐ言葉の続きを聞きたくなくて、リナは振り返った。
「昔の知り合いよ。」
 もう別れたのだから構うな、という意味を込めてリナはガウリイを睨んだ。
「何だ、知り合いか。」
 ビリーはあからさまにほっとした顔をしてガウリイに手をふった。
「悪いけど、リナはオレと予定があるんだ。」
 ビリーの言葉にガウリイは顔を顰め、リナを見た。
「リナ。」
 ガウリイの低い声が、自分の軽率な行動を咎めているような気がしてリナは拳を握り締めた。そして、にっこりと笑った。
「聞いたでしょ?あたし、彼と飲みに行くの。」
 リナの言葉に、ガウリイは目を見開いた。そして、唐突に腕を伸ばし、乱暴にリナの腕を掴んでビリーから引きなした。
「おいっ、何すんだよっ!!彼女にはオレが先に目をつけたんだぞ!!!」
 食って掛かるビリーをガウリイはじろりと睨み付けた。
「うせろ。」
 低い声に込められた殺気に、ビリーの顔がさっと青ざめる。超一流の剣士の殺気に町のナンパ男が敵うわけがない。
 ビリーは口も利けずに震えながら、走り去っていった。
「何すんのよっ!!!」
 リナが怒鳴った。
「何って、お前が馬鹿なことしようとしてたからだろうが。」
 ガウリイが感情を抑えた声で言う。
「馬鹿なことって何よっ?あの程度のナンパ男と飲もうとしてたこと?」
 結構ヒドイことを言っている自覚はリナにはない。
「こんな時間に男と飲みに行くって意味も分からないのか?」
 リナが何をしようとしていたのか考えるだけで気が狂いそうになる。
 ガウリイの心境など分かるわけもなく、リナは怒りのままに怒鳴った。
「分かってるわよ!!あの男が何考えてるかくらいっ!!でもっ!!!!」
「見られてるぞ。」
 ガウリイの低い声が周囲の視線を指摘した。
 まだ夕食を求める人が歩く時間帯、けっこうな数の視線が、通りの真ん中で口論する2人に集中していた。
 リナはさすがに口を噤んだ。
「場所を変えよう。近くに、オレのとった宿がある。」
「・・・分かったわ。」
 怒りの収まらないリナは深く考えずに頷いた。
 文句をもっと言わなければ、気がすまなかったのだ。



 短い・・・。
 短いなぁ・・・。
 まぁ、いいか。
(2005 3/13)