14
 『リバー・ウォーク』は川辺に400メートルに渡って続くショッピングモールで、常時込み合っている。内部はいくつかのフロアに分かれ、総計200件あまりのブティックやレストラン、カフェがぎっしりとつめこまれている。
 リナは午前11時に『リバー・ウォーク』にやってきた。小さなカフェでコーヒーを飲みながら、新聞を読む。このカフェの1フロア下の階に約束の『フレンチメンズ・ベンド』はある。
 今日のリナは大きめのデニムのシャツにリーバイスのジーンズ、腰にはウェスト・ポーチを巻きつけていた。栗色の髪は二つに分けて三つ編みのお下げにし、大きめの鼈甲縁の眼鏡をかけた。これで、カリフォルニアあたりから出てきた田舎娘に見えるだろう。
 大き目の眼鏡っていうのはガウリイ=ガブリエフみたいね。
 ふと思い出して、リナは頬を緩めた。だが、それも一瞬にして引き締まる。
 コーヒーを飲みながら、昨夜に考えたとるべき行動を思い出す。睡眠は5時間にしてあらゆる状況を想定したリストを作り、頭に叩き込んできたのだ。睡眠不足と準備不足で不覚をとるような真似だけはしたくない。そんなことをしたら、姉に指差して笑われるだろう。
 リナは、ギャビン=ヴァーヒークを心から信用することはできなかった。彼は法執行機関の宮仕えだし、その組織自体、自身のルールで動くことがある。ヴァーヒークの上司は大統領に報告するが、大統領の下で行政府を動かしているのは馬鹿ばかりだ。大統領自身には怪しげな友人がいて、彼に気前よく献金しているのである。
 それでも、ヴァーヒークよりも信用できる相手もいない。5日間逃げ回り、二度も殺されかけたのだ。この街にいる意味はもうない。リナひとりでは既に限界がきているのは分かっていた。警察を頼るもFBIを頼るも同じだろう。たまたま、FBI関連の知り合いがいるのだから、利用する他道はない。
 11時45分、リナはカフェを後にした。買い物客に紛れて『フレンチメンズ・ベンド』の横を通り過ぎ、2件先の本屋に入って、雑誌をとった。ここなら、他にも暇つぶしをしている客も多く、店員が余計な声を掛けてくることはない。
 キャラハンの話では、ヴァーヒークは時間を守ったためしがないということだった。最低1時間は遅刻するらしいが、15分以上遅れたら立ち去るつもりだ。
 12時丁度、ヴァーヒークは姿を現した。黒のスエットシャツに赤い野球帽、太目の体系だが、思った程太っていない。だが、太目なのは確かだし、2キロや3キロの違いなど分かるものではない。
 リナは雑誌を目の高さまで掲げて、じっとヴァーヒークを観察した。
 ヴァーヒークはそわそわと落ち着かず、いらいらしているようだった。電話の雰囲気と同じである。何度も体重を乗せる足を変え、曲がってもいない帽子を触り、おどおどと周囲を見回している。
 リナは安心した。慣れてない無防備な姿から、ヴァーヒークも怯えていることがよく分かる。それは、リナの予想通りだった。
5分間、彼は店内に入り、まっすぐ奥へと向かっていった。

 カーメルは死を恐れたことがない。死を覚悟した生活を30年も続けてきたお陰で、何があっても緊張することはなかった。そわそわとしているのは当然演技だ。ポケットにはハンカチが入っていて、急に風邪を引いたことにする予定だ。昨日、レコーダーを何度も聞いてヴァーヒークのイントネーション、リズム、中西部風のアクセントは身につけたが、声はヴァーヒークの方がもっと鼻にかかっている感じだったのだ。風邪を引いたことにすれば、多少声に違和感を感じても大丈夫なはずである。
 カーメルはサファリジャケットをあれこれ見ていきながら、不安そうに肩を丸めた。
自分と肩を並べるほどのプロとの対決でも勝ってきた。今回のように絶望に駆られた小娘とのランデブーなど、造作もなく切り抜けられるはずだ。
 後ろから気配を押し殺して近づいてくる人間に気づく。本来なら、背後からの接近など許さないのだが今回は仕方がない。
 それにしても、気配をこれだけ消せるというのは、電話にあった追跡者を撃退したというのもあながち誇張ではないのかもしれない。だからといって、自分が遅れをとるわけもないのだが。
 娘はすぐ近くまで来てから声を掛けてきた。
「ギャビン。」
 カーメルはわざと飛び上がるようにして振り返った。瞳には驚きと怯えをしっかりと宿しておく。
「リナ。」
 カーメルは言いながら、ハンカチを出してくしゃみのマネをした。
 リナ=インバースは大きな眼鏡の奥の紅い瞳でこちらをじっと見詰めている。不安で翳っているが強い色を浮かべる目に、カーメルはぞくりとする。
 少しだけ、殺してしまうのが惜しい気がした。
「ここを出よう。ここにはいたくないよ。」
 リナは頷いた。こんなに怯える男は衆目を集めてしまう。一刻も早く、町を出てしまわなければ。
「あたしの言う通りにしてね。どこで風邪引いたのよ?」
 カーメルはハンカチを口に当て、なるべく苦しそうな声を出す。
「昨日だよ。エアコンを低くしすぎた。早く、ここを出ようよ。」
 リナは頷き、カーメルの手をとった。
「ついてきて。」
 2人は遊歩道へ続く階段を下りていった。
「連中の姿は見かけたかい?」
 カーメルはおどおどと尋ねた。
「まだ見てないわ。でも、近くにはいるんでしょうね。」
 そうだな、すぐ近くだ。
 カーメルは内心で頷いたが、面にはまったく出さなかった。
「どこへ行こうとしているんだい?」
 早足で遊歩道を歩きながら、カーメルは問いかけた。
「とにかく、もう少し速度を落とそう。怪しまれてしまう。ねぇ、やっぱり電話をかけさせてくれ。すぐに捜査官は来てくれるから、護衛してもらおうよ。こんな馬鹿なことはやめよう。」
「駄目よ。」
 リナは振り向かず、歩調だけ緩めた。そして、外輪船の横の行列に並んだ。
「なんのつもりだい?」
「言うとおりにしてって言ったでしょ?」
 囁くようにリナは言った。
 カーメルも囁き返す。
「馬鹿なマネはよすんだ。まさか、船に乗るつもりじゃないだろうな。」
 電話の雰囲気から、ヴァーヒークは文句の多い男だったようだから、カーメルも文句を言う。
「そうよ。」
 リナはとにかく注目を浴びたくなかったので、ろくに男の方を見ず、前方を見たまま答えを返す。もし、彼女がじっくりと隣の男を観察すれば何かに気づいたかもしれない。しかし、彼女はそれをすることはなかった。
「なぜ?」
 カーメルはここでくしゃみをした。
 その気になれば、片手で娘の息の根をとめることもできる。だが、前にも後ろにもいる状態ではまずい。カーメルは自身の完璧な仕事に誇りを抱いていた。こんな欠点だらけの場所で仕事はできない。まずは、娘の言うとおり船に乗り、数分後には上部甲板に娘をおびき出して殺し、それから川へ死体を投げ捨ててから悲鳴を上げ、溺死事故にしてしまおう。それが駄目でも、機会はいくらでもあるし、方法もいくらでもある。
「船は30分後に停船するわ。そこから1キロ半ほどの公園に車をとめてるの。船から降りたら、車に乗って一目散、よ。」
 リナの説明が終わる頃、やっと行列が動き出した。
「船は嫌だな。船酔いするし、危険じゃないかい?」
 カーメルはこほこほと咳をし、おどおどと周囲をうかがった。
「落ち着いてよ。きっと成功するわ。」
 リナの声は実際、落ち着いていた。
 カーメルはスラックスをひっぱった。スエットシャツの下には厚い布を幾重にも巻いていて、傍目には75キロ以上には見えるようになっている。

ざわり
 人々が少々ざわついたが、船に乗ろうと順番を一心に待っているリナたちはそれに注意を払わなかった。
 一人の男が行列に走りよってきていた。
 帽子を目深にかぶった痩身の男はバッグやカメラをぶらさげた人々を掻き分けてムリヤリ前に進み始めた。そのために起こったざわめきだった。
 観光客はぎっしりと固まっていた。
 人ごみの向こうに栗色の小さな頭が見えた。
 男はしゃにむに行列の前を目指した。
 押しのけられた人から罵りの声を浴びたが、無視して進む。
 このままリナ=インバースを行かせれば、1時間以内にその命が失われることは明白だ。彼女の隣の男の顔は、数週間前空港で撮影された写真と同じ顔で、それ以前にファイルでも確認した顔なのだから。
 リナまであと数歩のところで、ゼルはポケットから銃をとりだし、右足にぴたりとつけて進んだ。
 リナは隣の男と手をつないでいた。隣の男はひっきりなしにリナに話しかけていた。
 タラップにリナの足が乗ったそのとき、ゼルは最後の邪魔者を押しのけ、素早く銃をつきだし、赤い野球帽の真下の後頭部に銃口を押し付け、引き金をひいた。
がぅんっ
 銃声が響いた。
きゃあああああああ
ひぃいいいい
 周囲の人々は恐怖の悲鳴を上げて、地面に身を伏せ、我先に逃げ出した。

どさりっ
 ヴァーヒークが倒れた。
 リナは悲鳴も上げられず、恐怖に後じさった。
 すぐ近くで鳴った銃声のため、ひどい耳鳴りがする。
 銃をもった男は素早く身を翻し、走り去っていく。
 一瞬、男は振り返り、目があった。
 鋭いその眼差しにリナは規視感を感じたが、その感覚を掴む前に男の姿は消えた。
「この人、銃を持ってる!!」
 女の叫び声。
 ヴァーヒークは四つん這いになり、右手に小型の拳銃を握っていた。
 後頭部から、口から、鮮血を滴らせながら、もがくように這う。
 ヴァーヒークの口から苦痛に満ちた大きな叫びが上がったが、リナにはどこの国の言葉なのか分からなかった。
「この人、エジプト人だわ。」
 浅黒い肌の女が呟いたのを、リナの耳が聞き取った。
 やがて男は動かなくなった。
 人々は死体を眺めようと、集まってきていた。
 パトカーのサイレンが聞こえてきてリナは我に返った。人ごみを抜けて『リバー・ウォーク』の中のトイレに駆け込んだ。
 ドアをしめ、便器に座り込む。
 深呼吸して、とにかく次の行動を考える。
 リナは『リバー・ウォーク』を歩き回り、新しい服を買って着替えた。何の変哲もない黒のトレンチコートを買い、サングラスと帽子も買ってトイレで着替え、着ていた服をゴミ箱に捨てた。
 あああ、もったいない・・・。
 嘆かわしさを感じながら、リナは近くのホテルを目指したが、あいにく空き部屋がなかった。
 予定変更だわ。
 リナはホテルのラウンジでコーヒーを飲んだ。
 ひょっとしたら、今まで考えた行動をとりすぎていたかもしれない。
 リナはホテルを出て、適当に歩いたところでタクシーを拾った。
「バトンルージュまで行きたいの。」
 年寄りの黒人の運転手は目を丸くした。
「そらまたえらく遠いな!!」
「いくら?」
 リナは間を置かずに尋ねた。
 運転手はちょっと考え込んだ。
「150ドル。」
 リナは後部座席に乗り込み、2枚の紙幣を背もたれ越しに突き出した。
「ここに200ドルあるわ。できるだけ飛ばして。ああ、尾行には気をつけていってちょうだい。」
 運転手はもう何も言わずに頷き、メーターをオフにしてポケットに金を突っ込んだ。
 リナは後部座席に横になって目を閉じた。
 賢明な行動とはいえないかもしれない。けれど、確率に従っていても道は開けてこない。
 タクシーは数分後には、高速幹線道路にのった。
 リナの脳裏に血を流しながら這う男の姿が浮かんできた。
 キャラハンは以前ヴァーヒークをダッチ(オランダ人)・ヴァーヒークと呼んでいた。ヴァーヒークは決してエジプト人ではないはずだ。
 殺害犯人の鋭い眼差しも思い出す。
 あの時、何かを思い出しそうだったけれど、霞のように消えてしまった。
 リナは目を閉じた。
 今は、何も考えられない。
 バトンルージュへの道の半ばほどで、リナは深い眠りに落ちていた。


 午後九時、ガーヴは電話を受け取り、ひとこと二言指示を呟いて、受話器を置いた。
 ラルタークがデスク正面の椅子に座っていた。
 オフィスのドアは開け放され、何人かずつが集まっては沈痛な雰囲気で囁きを交わしていた。
「ラーシャートからだ。」
 ガーヴは静かに椅子に腰を下ろした。
「2時間前に向こうに到着して、たった今検屍を終えたところだった。ラーシャートは検屍に立ち会ったんだ。初めて見たようだな、右米神を一発打たれていたが、死因はそれに先立つ椎体への強烈な打撃だとよ。椎骨は粉みじんに打ち砕かれてたらしい。それから、打撃によって喉頭も潰れていたが、これは死因じゃねぇ。バスローブ姿。死亡推定時刻は、昨夜10時から11時の間だ。」
「発見者は?」
 ラーシャートが尋ねた。
「今朝、11時に入ったメイドだ。奥さんにはお前から伝えてくれねーか。」
「はい。遺体がこちらに戻るのはいつですか?」
「2時間後には許可が下りるから、午前2時にはこちらに到着するだろう。奥さんには望みは何でも叶えてやると言ってやれ。明日には100人の捜査官を向かわせ、何が何でも犯人を捕まえるとでも、何とでも言ってやるんだ。」
「何か証拠は残ってたんですかな?」
「皆無だろうな。ラーシャートの話だと、部屋の捜索は3時からずっと続けたようだが、きれいな仕事だったらしい。抵抗の後は一切ない。手がかりになるようなもんもないらしいが、決め付けるにはまだ早いか。」
ガーヴは唸るように最後の言葉を言った。
「葬式に出ただけで、なんで殺されなくちゃならなかったんですか?」
 捜査官の一人が首を傾げた。
「あの馬鹿は、『ペリカン文書』のことであちこち嗅ぎまわっていたようだ。ギャビンと親しかった向こうの捜査官の話だと、ギャビンは例の娘を探そうとしていて、娘もギャビンに電話をかけてきていたらしい。娘を保護するのに手を借りるかもしれないとギャビンが言っていたようだ。ギャビンは教えられたテューレーン大学の学生がバーテンをするような店を何件か回っていたらしい。やつは、ギャビンがあちこち名刺を配って歩くから、考えが足りないんじゃないかと心配していたようだが・・・。」
「娘の姿を目撃した人間は?」
「もう死んでるんじゃねぇか。ニューオリンズ局には可能なら娘を発見するように支持しておいたが、な。」
「その娘の書いた文書のお陰であちこちで人が死んでいく。いつになったら、あれに真剣に取り組むんです?」
 ガーヴはラルタークに目で合図した。
 ラルタークは捜査員たちを外へ出し、オフィスのドアを閉めた。
 ガーヴは声を落とした。
「我々は自分の立場を守らなければならねぇんだ。『ペリカン文書』問題には、最低でも200人の捜査官を投入すべきだと思うが、細心の注意を払って隠密裏に進めなくちゃならねえ。あの裏には絶対なんかある!!とんでもなく醜悪な秘密のはずだ。大統領自ら手を引けと言ってきた。あのときゃ、文書は冗談だと思ってたからな頷いたが。」
 ガーヴは凄みのある笑みを浮かべた。
「手を引けっつー会話は録音してある。どーせ、向こうも録音してるだろうしな。」
「つまり?」
「簡単な話だ。我々は全力でこの件に取り組む。これが本命なら事件は解決に向かう。だが、こいつは特急でやんなくちゃなんねぇ。ホワイトハウスの薄ら馬鹿とフィブリゾには捜査のことは一切知らせん。もし、マスコミが嗅ぎ付けてきたら、お仲間のことで大統領が手を引けっつったことをアメリカ国民に知らしめてやる。」
 ふふん、とガーヴが笑った。
 ラルタークもにやりと笑った。
「これで、大統領も一巻の終わりですな。」
「ああ、再選は無理で、フィブリゾも大量出血だぜ。」
「最高ですなぁ。しかし、まずは事件の解決です。」
 ガーヴはがしがしと赤毛をかいた。
「一筋縄ではいかんだろうな。本命がヤツなら、莫大な資金力があり、裁判官2人殺すために、一流の殺し屋を雇うような入念な計画を立ててる。ああいったやつらは口は固いし、痕跡も残さねぇ。ギャビンを見ろよ。何千時間かけたところで、証拠は何ひとつ見つからんに決まってる。ローゼンバーグとジェンセンのときと同じようにな!」
「キャラハンもです。」
「そう、キャラハンもだ。おそらく、あの娘もだろう。死体があがれば、痕跡ひとつないに違いない。」
 ラルタークは視線を落とした。
「私にも責任がありますな。ギャビンはキャラハンの一件を知った後、木曜に私に会いに来たんです。しかし、私は耳を貸さなかった。ニューオリンズに彼が行くと知っていながら、話を聞こうとはしなかったんです。」
「ギャビンが死んで残念だ。やつは優秀な弁護士だった。俺に忠誠を誓ってくれていた。それは俺にとって貴重なものだ。しかし、ギャビンは自ら死地に赴いたんだ。警官の真似をして娘を探すなど、やつの仕事じゃなかったんだ。」
 ラルタークは立ち上がった。
「ミセス=ヴァーヒークに会いにいってきますよ。」
「ああ、強盗殺人のようだ、とかなんとか言っておけ。」
「はい。」
 ラルタークの去った後、ガーヴはあちこちに指示を出した。
 おそらく今夜も睡眠は取れないだろう。


 フィブリゾは市街をリムジンで流していた。
 隣にはバーが座っている。
「ガウリイ=ガブリエフが何を掴んでいるか、知りたいんだ。」
 フィブリゾは言った。
「今日、あの男はジークマンに電話し、ジークマンの補佐のトランデル、それに元僕のアシスタントをしてたネルスンにも電話してる。一日にこれだけ掛けてるんだ。あの男、『ペリカン文書』に本気で熱くなってるんだ。」
「ガブリエフは文書の実物を見てるんだろうか。」
 フィブリゾは頭を振った。
「いや、見てないから探りを入れてきてるんだろう。だが、存在を知ってるだけで忌々しい話さ。」
「あいつは腕のいい記者だ。もう何年も前から注目してる。どうやら、裏の世界も歩き回ってるようだし、ちょっと変わった情報提供者のネットワークとも接触を欠かさない。やつの記事はおおむね正確なとこを突いてやがる。」
「だから心配なんだ!食らいついたら離さない男だぞ。おまけに、この件では血のにおいを嗅ぎ付けてるんだ。」
 いらいらと腕を組むフィブリゾを横目に、バーは缶ビールをすすった。
「一応聞いとくが、俺がその文書の内容を知ることは越権行為になるんだよな?」
「ああ。あれは最高機密だ。」
「なら、ガブリエフはどこでそれを勘付いた?」
「僕もそれが知りたい。どうやって知ったか。どこまで知っているのか。情報源はどこか。」
 バーはふうっと息を吐いた。
「やつの自動車電話にゃ細工したが、自宅アパートにはまだなんだ。」
「なぜ?」
「掃除婦がきやがった。明日、出直す予定だ。」
「つかまらないでくれよ。で、お前たちなら、ガブリエフのポスト社の電話を盗聴できるか?」
「馬鹿を言うな。不可能さ。一日中人が出入りしてる上に、警備員もいるんだぞ。」
「本当に無理なのかい?」
「絶対だ。」
 フィブリゾはにっこりと笑った。
「とにかくガブリエフのアパートを盗聴しろ。1日2回、通話内容を報告してくれ。」
 指示の後、リムジンは停車し、バーは車を降りた。


 ガウリイの周囲もキナ臭くなってきてます。(2005 5/5)