紅炎蒼炎輪舞
 
 1
 鬱蒼と茂った森。
 生い茂った葉の間から、木漏れ日が降り注ぐ。
 正体不明の鳥の囀りでも聞こえれるのが相応しい空間に、煙が立ち、肉の焼ける臭いが立ち込めた。
ガゥンガゥンッ
 ふいに響く銃声に驚いた鳥たちがばさばさと音を立てて飛び立つ。
 銃声を追うように怒鳴り声が響いた。
「一辺死んできやがれっ!!!!」
 落ち着いていればかなりの美声であろうが、キれた状態のうえ殺気の籠もったそれは酷く物騒である。
 硝煙たつ銃を片手に怒鳴っているのは20代前半くらいの美丈夫だ。名を玄奘三蔵という。輝ける金糸の髪、女顔といってもいいほど整った顔に、深い紫暗の瞳はややタレているがその美しさは本物だ。細身ながら均整のとれた身体は―物騒な気配からすると信じられないことに―法衣で包まれている。
「一辺だって死んだら終わりじゃねえ?うわっ、ゴメンゴメン。」
 下らない揚げ足取りをして睨まれ、すぐさま謝ったのは10代後半の幼さの残る可愛らしい顔立ちの少年である。名は孫悟空。彼は栗色の髪に金色の瞳の持ち主で、ころころとよく表情が変わる。額には金色の環をつけている。爪のついた肩当に橙色のマント、白いシャツに赤い上着、ハーフパンツから除く膝がやけに健康的である。
「だってさー、あいつがしつこいから。」
「人のせいにしないでくれね?小猿ちゃん。」
「サル言うな!!エロ河童!」
「エロ言うな!サルサルサル・・・。」
 悟空にムキになって言い返すのは、20代前半の青年だ。名は沙悟浄。長い紅い髪に茶色のバンダナ、頬にキズがあるものの精悍な顔立ちに紅い瞳。結構な長身で無駄のない筋肉で覆われた体には茶色の革ジャケットに黒いパンツ。普段は夜の街が似合いそうな色香が微かにあるのだが、今言い合いに夢中になる様子からはそんなものはどこにも見つけられない。
「もうご飯できますから、いい加減、やめましょうね?」
 口調だけは穏やかながら、地を這うような声が響いた。
 言い合っていた2人は同時に硬直し、視線の先に黒い笑みを見つけると同時に頭を下げた。
「「スミマセンデシタ!!」」
「分かればいいんですよ。」
 一転爽やかな笑みを浮かべたのも、20代前半の青年だ。名は猪八戒。黒髪に翠のバンダナ、優しげに整った顔には片眼鏡、とりあえず今は穏やかに笑っているのは翠の瞳である。隙のない動きを見せる体には黒いシャツに翠の上着、白い肩掛け、ベージュのパンツを纏っている。
「あ、もうご飯できたんだ。」
 柔らかな美声がゆったりと空気に溶けた。
 声の主は20代前半の女性である。名は七瀬あやめ背の半ばほどまでの艶やかな黒髪に白い肌。派手ではないが端整な顔立ちに、切れ長の大きな瞳は深く澄んだ蒼。ほっそりとした肢体に青灰色のアオザイと黒いゆったりとしたパンツを纏っている。
あやめは先ほどまで目を落としていた書物をぱたりと閉じると立ち上がった。
「いい匂いね。」
 微笑んで、あやめは仲間たちの方へ歩を進めた。

 人間と妖怪という別々の種族が存在する世界において、文明と信仰の源である桃源郷は2種族の共存する理想郷であった。しかし、その理想郷は突然、負の波動に襲われた。
 原因は牛魔王蘇生実験。化学と妖術の融合という禁忌のもたらしたものだった。
 負の波動は特に妖怪に影響し、妖怪は自我を失い、欲望のままに己の人間よりも戦闘に長けた能力を使って暴動を起こした。
 この混乱を収めるべく、天界の三仏神の命により、玄奘三蔵法師は蘇生実験阻止のための旅をしている。
 三蔵法師というのは天より下された経文を守る最高位の僧である。玄奘三蔵が守るのは聖天経文と魔天経文の2つであった。しかし、玄奘三蔵が三蔵を継いだときに聖天経文は奪われ、同時に三蔵の師光明も命を落とした。
 その聖天経文が牛魔王蘇生実験に利用されている可能性があるらしい―。

 賑やかな昼食が始まった。
「あっ、それはオレの〜っ!!」
「早いもの勝ちだろ。」
「じゃ、こっちはもらいっ!」
「あ、てめーっ!!」
ガゥンガゥン
「黙って食え!!殺すぞ!」
「「はーい」」
 いつもの光景に目を細めたあやめは箸を動かそうとして、ふと、内なる存在の緊張している様子に気づいた。
"皓月?"
 声に出さずに呼んでみると、彼女に宿る意志ある刀皓月は少し緊張を和らげた。
"敵が近くにいるわけではない。ただ、何か妙な気配がする気がするのだ。"
 あやめは首を傾げた。
 皓月は何世紀も前から存在し、一時は神格さえ与えられたほどの刀である。その彼(皓月に性別はないが便宜上)の言うことであるから、信用はできるのだが。
 考えながら、自分の分の食事を確保しつつ、箸を動かす。
"妙なって・・・?私には何も感じられないけれど。"
 声に出さずに問うのは、せっかくの楽しい食事中に余計な心配をさせたくないからである。
"空間が妙だ。"
 皓月の短い言葉にあやめは眉を顰めた。
 自分の取り分の最後の一口を飲み込んで、箸を置き、周囲をうかがう。
 実は、あやめはこの世界の住人ではない。
 彼女はビルが立ち並び、車の走る世界において、『最遊記』という漫画の一読者であった。しかし、ある日突然この世界に来てしまった。途方にくれた彼女の前に、この世界を見守る任のある観世音菩薩が現れ、三蔵法師一行に加わり牛魔王蘇生実験阻止の功績をあげれば元の世界に戻そうと提案した。あやめはそれに頷き、そして、彼女の前世から彼女の魂に付き従っていた皓月を手に日々戦っているのである。
 あやめは慎重に皓月に問いかけた。
"つまり、私みたいにこの世界に迷い込もうとしている人がいるということ?それとも、天界の人がこちらに来ようとでも?"
"それは・・・。"
 皓月が何かを答えようとしたそのとき、突然周囲に白い光が満ちた。
「!?」
 あやめは思わず立ち上がった。
「敵襲?いえ、殺気も妖気もないですよね?」
「なんだなんだ?」
「眩しい!」
「・・・・・。」
 慌てる三蔵一行の中、三蔵はあやめを見詰めた。
「おい、この光、お前がこの世界に来たときのものに似てねぇか?」
 あやめは思わず目を見開いた。
 すぐ当てるとは思わなかったのだ。
"何者かが現れたようだな。"
 脳に直接響く声に、三蔵一行は驚き立ち上がった。皓月があやめ以外にも聞こえるように喋ったらしい。
「へえー、どんな人かな?」
「美人にこしたことはねぇよな。」
「観音様絡みでしょうか・・・?」
 好き好きな感想を述べていた三蔵一行だが、ふいに表情を引き締めた。
「妖気だな。」
 三蔵が短く呟く。
 白い光の中心と思われる方向に大量の妖気が近づいているようだ。
「皓月。」
 あやめが呼ぶと、呼びかけに応えて彼女の手の中に蒼銀の光が集まり、一瞬でその光は剣の形をとった。
 軽く弧を描いた抜き身の白刃には一点の曇りもない。柄には白い皮が巻かれており、蒼い紐が組まれている。そして、飾り房も同じく蒼い。飾り紐などはついているものの全体的に見て装飾の少ない剣である。
「戦えない人だと大変だから。」
 あやめは言って、走り出した。
「オレも行く!」
 悟空があやめについて走り出す。
「しゃーねえな。美女なことを祈るぜ。」
 にやりと笑って悟浄も走り出す。
「チッ。」
 舌打ちをして三蔵も走り出した。
ばしゃっ
 せっかくの火だったが、火事になっては大変と八戒は即席の釜戸の火を消して、白竜のジープの方を向いた。
「ジープは荷物番しててくださいね。」
キュゥゥン
 ジープの返事を確認して少し遅れて八戒も駆け出した。


やってしまいました。『最遊記』とのコラボです。
記念すべき第一話にリナが出てこないし・・・。
一話目だから説明多いし。
生暖かい目で気長に見守っていただけるとありがたいです。
(2005 10/2)