鬱蒼と茂った森の中、突如発生した白い光。その中心に2人の人間が現れていた。
 小柄な少女と長身の青年である。
「眩しかったー!!」
 目をしぱしぱさせながら、少女が可愛い声で言った。
 艶やかな栗色の豊かな髪がふわふわと背に流れ、白い小さな顔はお人形のように可愛らしく整っているが、大きな紅い瞳が苛烈なまでの光を宿していて、儚さを払拭している。少女は華奢な身体に真っ黒いマント、大きな肩当、様々な宝石の護符を纏っていた。
「魔族とかの気配はないようだが・・・。」
 低い美声がおっとりと言った。
 金色の長い髪が風にさらさらと揺れ、彫刻家が刻んだが如き整った顔には蒼い瞳が柔らかな光を浮かべている。青年は無駄のない筋肉の張り巡らされた見事な肉体に薄青い服と黒い胸当て、肩当、腰当をつけ、大きな両手剣を持っていた。
「さっきまで、あたしたち街道を歩いてたのよね。覚えてる?ガウリイ。」
 ガウリイと呼ばれた青年はジト目で少女を見た。
「リナ・・・。さすがにオレでも何分もたってないことくらい覚えてるぞ。」
 リナと呼ばれた少女は軽く肩を竦めて見せた。
「あら、じゃあ、あたしたちがどこの町にむかってたか覚えてる?」
「はっはっは、バカだなぁ、リナ。そういう細かいことをオレが覚えてるワケないじゃないか。」
 爽やかな笑みを見せたガウリイに、リナの右手が閃いた。
すっぱーんっ
「いってぇええ!!」
 長身を丸めてガウリイが頭を抱え込んだ。
「えらそうに言うんじゃないっ!!」
 ふんぞりかえって、リナは取り出したスリッパをごそごそと仕舞う。
 リナは周囲を見回した。
「うーん、普通の森よねぇ。ちょっと生えてるものに見覚えないものとかもあるけど、そんなの地方によって違うものだし。」
「そーなのか?」
「そーなのよ。」
 考え深げな目で周囲を見回す少女も、のほほんと少女を見詰める青年も特に緊張した様子は見受けられない。突如として身に降りかかった出来事について落ち着いて構えている。
「けど・・・、ゆっくり考えてられないようね。」
 リナの紅い瞳が煌いた。
「そーだな。」
 ゆっくりと頷くガウリイも表情を引き締め、手を剣の柄にやった。
「結構な数の殺気だが・・・、ちょっと妙な気配もするなぁ。」
 のんびりとしたガウリイの言葉に、リナが眉を顰めた。
「なに、魔族ってこと?それとも人魔?」
「いや、それとも違う。あと、オレたちには殺気を向けてない気配もいくつかするぞ。」
「あたし何も感じないわよ?あいかわらずケダモノじみた勘よねぇ。」
 呆れた声でリナは自分の小剣を抜いた。
「で、どっちが先にここに着く?」
「うーん、同時、くらいか。」
 ガウリイは斬妖剣を抜き放った。紫がかった刀身が木漏れ日に鈍く光る。
ばさばさばさっ
 鳥が一斉に飛び立ち、複数の足音が近づいてきた。
がささっ ばたばたばた
 いくつもの人影がリナたちの目の前に飛び出してきた。
 手に武器を持ち、あからさまにリナたちに殺意を向けている。
 リナは少し眉を顰めた。
 これは何だろう。
 リナとガウリイを襲おうとしているモノは、リナの知らない外見をしていた。
 肌の色がまず一色ではない。爪が長かったり、尻尾が生えていたり、角があったり、牙が生えていたり、羽が生えていたり――。
 魔族ならこの外見も分かるのだが、彼ら特有の瘴気が感じられない。
 リナを庇う様にガウリイが一歩前に出た。
 リナは魔道士なので呪文の詠唱が必要である。また作戦を練るのもリナなため、ガウリイは特攻してリナのための隙を作るのがいつもの戦闘パターンなのだ。
 ただ、今ガウリイの横顔がいつもより緊張しているように見える。
「ガウリイ?」
 リナは問いかけた。何かあるなら聞いておかなければならない。
「油断するな、リナ。あいつら、よく分からんが人魔に近いくらい強そうだ。」
 視線を敵から外さないまま、ガウリイが低く言った。
「了解。」
 リナは頷き、息を吸い込んだ。
「いったい、何なの?殺気なんか向けてくれちゃってるけど、あんたたちにあたしたちは用ないんだけど?」
 大声で問うと、リーダー格らしき男(尻尾つき)が一歩前に出てきた。
「ここに現れるものを抹殺しろとの命令だ。死んでもらうぜ。」
 にやにやと言いながら、男は片手を掲げた。
 そのとき、軽やかな足音が近づいてきた。

「加勢します!!」

 突然、青い衣を翻した女性が走り込んできた。
 艶やかな黒髪のなかなかの美女であるが、手に立派な剣を持っている。
 女性はリナとガウリイを見て、一瞬大きく目を見開いたが、すぐに襲撃者に向かって剣を構えた。その構える姿は氷の刃のような鋭さで、ガウリイが少し感心した顔をした。
「私はあやめといいます。」
「あたしはリナ、こっちはガウリイです。」
 加勢してくれる上、名乗られたのでリナはとりあえず名前を言っておく。
 あやめはその名を聞いて、困惑の表情を浮かべたがすぐに表情を引き締めた。
「リナさん、彼らは人間とは段違いの筋力と力を持っています。人間相手とは勝手が違うので油断しないでください。」
「人外には慣れてます。忠告ありがとう。」
 数秒のやりとりだったが、リナはあやめは信用できると判断した。そして、襲撃者に目を戻すと、明らかに襲撃者は動揺していた。
「おい、青い衣に黒髪の女剣士って・・・。」
「ああ、あれは三蔵一行の・・・。」
 どうやらあやめは襲撃者に知られているらしい。

「あやめーっ!!」

 森の中から、今度は栗色の髪に金色の瞳の少年が飛び出してきた。
「あやめ、早すぎ!皓月の裏技?」
 唇を尖らせて少年が無造作に近づいていく。
「悟空。」
 あやめが小さく微笑んだ。
「うっわ、うじゃうじゃいるじゃん!」
 悟空と呼ばれた少年は不敵な笑みを浮かべると、何もない空間に三節根を出現させた。
 リナはどういう魔法かと目を丸くした。
 襲撃者にさらに同様が走る。
「金目に如意棒三節根!孫悟空か!!」
「って、ことは三蔵一行だ!!間違いない!!」
「全員揃う前に叩くぞ!!」
 口々に言って、襲撃者は慌てたように襲い掛かってきた。
 予想外のスピードで迫る襲撃者に、リナは慌てて呪文の詠唱をする。
 これが、人間とは段違いの筋力というやつか。
「リナ!!」
 きぃんっ ずしゃあっ
 ガウリイが斬妖剣を振るい、敵を切り倒す。
「振動弾!!」
どぐぅっ
 襲撃者の身体が吹き飛んだ。
 リナもガウリイも殺気を向けてくる相手に手加減などしない。理由が分からなければ反撃できないというような考えは持ち合わせていないのだ。
 その様子を見て、あやめが何故か安堵の表情を浮かべたが、追及している暇はない。
 あやめの戦う姿は見事だった。舞うように剣を振るい、襲撃者を次々と屠っていく。
 悟空も身軽に敵に飛び掛り、その棒の一振り毎に鈍く激しい音が立つ。
ガゥンガゥンッ
 衝撃音が響いたかと思うと、小さな穴を額に空けた襲撃者が絶命して倒れた。
「三蔵!悟浄!八戒!」
 悟空が嬉しそうに叫んだ。
 森の中から、小さな鉄の塊を持った美丈夫と、顔立ちの整った青年2人が現れた。
「三蔵法師だ!!殺せ!」
「経文を奪え!!」
 3人の青年が現れた途端、襲撃者の半数がそちらに向かった。
 金髪の青年は衝撃音を響かせ、時には体術で敵を倒す。
 紅髪の青年は錫杖鎖鎌で敵を切り刻む。
 黒髪の青年は手から衝撃波を出して敵をなぎ倒す。

 あっという間に戦闘は終了した。
 あやめの手から剣が忽然と消えた。
 あやめの仲間たちの武器も消えていく。
 武器を瞬時に出したり消したりできるのなら、手に何も持っていないからといって安心はできないのだが。
 リナは自分の目を信じることにして、ガウリイに一つ頷いて見せた。それに応えてガウリイがとりあえず剣を仕舞う。
「手助けありがとうございます。あなたのアドバイスがなかったら、傷の一つくらいは負ってたかもしれません。」
 リナはにこりとあやめに笑いかけた。
 あやめもにこりと笑い返す。
「いいえ。でも、あなたたちなら2人だけでもそう困らなかったでしょうね。」
「楽ができるに越したことはないですし。・・・あなたたちをこいつら知ってたみたいですけど?」
「それは・・・。」
 あやめが何か答えようとしたところ、黒髪の青年が穏やかな表情を浮かべて間に入ってきた。
「まあまあ、こんなとこで立ち話もなんですし。僕たち、少し向こうで野営してたんです。そっちで話の続きをしませんか?ねえ、三蔵?」
 黒髪の青年が少し離れたところで仏頂面をしている金髪の青年に言うと、金髪の青年は頷いた。
「そうだな、こいつらの失敗が伝わるのにも少し掛かるだろう。とりあえず、場所は移動した方がいい。」
「というわけで、移動しませんか?」
 にこにこにっこり笑顔の青年に何やら油断できないものを感じたのだが、リナは頷いた。
「そうですね、こんな血臭の酷いトコで話さなくてもいいですね。案内お願いします。」
「こっちです。」
 黒髪の青年が先に立って案内をするのに、リナはガウリイを促して歩き出した。
 驚いたことに、5人ともリナたちより先を歩く。背を見せることで害意がないことを示しているのか、リナたちを信用しているのか。
 少なくとも、あやめは後者だろう。
 5人の後を追いながら、ガウリイがリナの方を見た。
「なぁ、何かまた妙なことになりそうな気がしないか?」
「すでになってるわよ。」
 リナが多少うんざりとした表情で頷いた。
「そうだな。」
 ふいにガウリイが手を伸ばした。
ぽんぽん
 大きくて無骨な手がリナの頭を軽く叩く。
「ま、なんとかなるだろ。」
 のほほんとした笑みで言われた言葉にリナは小さく笑った。
「そーね。」
 2人ならなんとかなる。
 そんな根拠のない自信が沸いてきて、照れくさくなったリナはいつまでも頭に乗っているガウリイの手を乱暴に叩き落とした。


うーん、『最遊記』の人たちが目立ってますねぇ。
でも、派手さや容赦なさでは負けてないはず!
ガウリナ要素を何とか盛り込んでいきたいものです。
(2005 10/2)
リナは初対面の年上のヒト相手なら、敬語使うかな、と思ったので敬語に変更しました。
(2005 10/)