side-G
 オレはデートする2人から距離を置いて、後をつけていた。
 店を出てすぐ、2人を見張るチンピラがいたが、とりあえず泳がせることにした。
 リナは楽しそうに歩いていく。
 ワインレッドのスリップドレスは否が応でもリナを女っぽく見せていた。強調される細いラインも、白い肌も、オレだけが知っていればいいものが人目にさらされている。旅を始めた頃は子ども子どもしていたリナだが、年頃になって随分綺麗になった。魔道士姿でも彼女に声を掛けたそうにする男は多かったのだ。今や艶やかに着飾ったリナに、彼女を追う視線は倍増する。
 ほら、また通りすがりの男がリナに目を奪われた。けれど、男たちはアンソニーを見て敵わないと思うのか悔しげに諦める。
 町の人たちはリナに感嘆の目を向けてから、心配そうにする。アンソニーのデート相手が襲われることを知っているからだろう。
「アンソニーの新しい彼女、怪我しなきゃいいけれど・・・。」
 好意的な心配の声に、オレは声を上げそうになった。
 リナはアンソニーの彼女なんかじゃない!!リナは・・・。
 オレは唇を噛み締めた。
 保護者自称してるオレには、そんなことを口にする資格は無いのだ。
 リナの細い肩をアンソニーが抱き寄せた。
 リナが真っ赤になり、何か抗議すると、今度は手を握った。
 リナは真っ赤になったが、その手を振り解かなかった。
 依頼を達成するために必要だと判断したのだろう。それが分かっていても、湧き上がる嫉妬を止めることはできない。
 どうして、そんな男に笑いかける?
 赤い顔でアンソニーに話しかけるリナは可愛くて・・・。
「・・・・くそっ。」
 オレは小さく毒づいた。
 あんな顔はオレだけに向けて欲しいのに。

 オレが見守る中、2人はレストランに入った。オレも軽く露天でメシを済ませる。
 露天の傍を、きょろきょろしながら、チンピラが何人か通り過ぎた。
 やっとのお出ましらしい。
 露天をのぞいていたリナは自分たちを見張るチンピラに気づいたらしく、紅い瞳を鋭く輝かせた。
 リナが何事か囁き、アンソニーが頷いて、2人はクレープを食べ始めた。
 野外で仲よくクレープを食べる2人の姿に、視線が集まる。初め、2人の見た目に感心していたのだが、リナがクレープを5つも食うから少しげんなりしているヤツも多い。
 アンソニーが指をのばし、リナの唇の横に触れた。
 リナが真っ赤になる。
 アンソニーは指でとったクリームを口へ運んだ。
 思わず、手が腰の剣へと伸びるのを必死で抑えた。
 いくらなんでも、こんな白昼堂々人を斬ったら問答無用でお尋ね者になっちまう。リナにお尋ね者なんかと旅させるわけにはいかない。
 怒りを込めてアンソニーを睨んでいたオレは、リナを睨む女に気づいた。
 化粧の濃い女だ。
 あれが、例のヤバイ筋の女か。
 リナも女に気づいたらしい、彼女は不敵に笑った。
 リナにはああいう笑みがよく似合う。
 戦闘意欲に輝く紅い瞳は炎のようで、彼女を鮮やかに彩るんだ。
 ふいにアンソニーがリナの腕を引いて、足早に歩き出した。
 アンソニーの目に、男の色が浮かんだ気がしてオレは不安になった。
 オレと周囲を囲んでいたチンピラどもが2人を追う。
 アンソニーは裏通りに入った。
 何をする気だ、と思う間もなく、アンソニーはリナを抱きすくめた。
 もがいて逃げようとするリナはアンソニーに何か囁かれ、大人しくなる。そんな彼女をアンソニーは壁に押し付けた。そして、リナに覆いかぶさるように・・・。
 呆然と目を見張ったオレの手が剣の柄に掛かり、そして、強張った。
 リナが抵抗していない。
 何故だ?
 何故、そんな男にキスされて逃げない?
 驚いているだけか?でも、長い。
 まさか、リナ・・・。
 嫌だ!許さない!!!

 オレが湧き上がる殺意に一歩踏み出そうとしたオレより早く、ばらばらと訓練も何もうけていない複数の足音が裏通りに入る。
 現れたチンピラにリナは不機嫌そうにアンソニーを見上げた。くすくす笑うアンソニーを睨むリナはいつも通りだ。アンソニーを嫌悪していたり、怖がったりはしていない。
 嫌じゃなかったのか・・・?
 ショックに目の前が真っ暗になるような感覚を覚える。
 ずっとリナの隣にいるのはオレだけだと思っていた。保護者としてでもいいから、傍にいたかった。欲しくてたまらなくても、彼女が怯えて逃げるかもしれないと思うと、手は出せなかった。なのに・・・。
 アンソニーを守って、リナはチンピラどもをあっさり倒していく。
 あの程度のチンピラにリナが負けるわけもないから、オレは自分の想いを巡らせた。

 お前に守られるだけの男なんて必要ないだろう?
 共に戦うことのできない男なんか、お前に必要ないはずだ。
 お前がオレ以外を選ぶなんて、絶対に許せない。
 許さない。
 
 新たにチンピラがやってきた。今度は女も来ている。
 その数が10人と大目なのが面倒だったか、リナが盛大に顔を顰めた。
 怯えるアンソニーにリナは安心させるように笑いかけた。
 話し合う2人の様子に、派手な女性が苛々と叫んだ。
「離れなさいよっ!!アンソニーは私のものよっ。」
 叫ぶ女に、リナはぽりぽりと頭を掻いた。
「諦めてくんないかしら?」
 リナの言葉に女の顔が歪む。
「ふざけないでっ、いきなり現れて、キスして・・・・!!許せないっ!!あんたなんかっ、あんたなんかっ。」
 激昂する女に、少し貫禄のあるチンピラが話しかけた。おそらく、あの男がこの場を取り仕切っているのだろう。
「お嬢さん、あの女、男の前でメチャクチャにしてやりましょう。こんだけの人数いれば造作もないことですよ。目の前で女ヤられりゃ、男もいい加減諦めますって。」
 ふざけたことを言い出した男に、リナは眉を顰め、大げさに首を振った。
「ふうぅ、嫌んなるわね。品はないし、顔は悪いし、頭も悪いし、弱いし。」
 仲間5人がすでに地面に倒れているのだが、馬鹿なチンピラたちは数の優位を信じていた。
「へっへっへっ、すぐそんな口きけないようにしてやるよ。」
「アンソニーのもんじゃなくて、俺たちのもんになってみんのも悪かねーぜ。」

誰が、誰のものだって?

「っざけるなぁあああ!!!」
 オレは耐え切れずに怒声を上げて走り込み、剣を振るった。
どさどさどさぁあっ
 リーダー格の男とケバい女だけ残して、チンピラどもを地面に沈める。峰打ちでも骨くらいイってるかもしれんが、命をとらんだけマシと思え!!
オレはリーダー格の男の視線からリナを庇うように立った。
 リナの姿をこれ以上、あんなこと抜かした男の目にさらしたくない。
「もう、ガウリイ、こんくらいどーとでもなったのに。」
 リナが一応文句を言いながら脇に来たが、オレは怒りのあまり彼女のほうを向かなかった。
 膨れ上がる殺気を抑えられない。抑える気も無い。
オレは一歩踏み出した。
「誰が、誰のものだと・・・。」
 低く殺気を込めた声に女が後退る。
「な、何言ってやがる・・・。」
 リーダー格の男が震えながらも虚勢を張る。
 オレは男を睨み付けた。
 こいつが、リナを他の男に襲わせようとした。
 リナを・・・っ!!
「リナはオレのもんだっっ!!!」
 怒りに任せてオレは男を殴りつけた。
「ぶほぅわっっ!!!」
 男は吹っ飛び、壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「ひ・・・・・・。」
 女が口を押さえながら悲鳴を上げた。
 ちんぴらども焚きつけてリナを犯させようとしたんだ。同情心の欠片も沸いてこない。
 女だからって、許そうとは思わん。
「ちょ、ガウリイっ。」
 混乱したようにリナが駆け寄ってきた。
ああ、そうか。さすがに、リナの目の前で女殴るのはヤバいか。
「ね、ちょっと・・・。」
 ぱたぱたと駆け寄るリナが困惑気味にオレを見上げる。その顔で、アンソニーを見上げたのかと思うと、怒りと独占欲が沸いてくる。
 オレはリナを片手で自分に押し付けるような格好で抱き上げた。
リナが真っ赤になる。
「なななななななななななななななにすんのよぉっ!?」
 叫ぶリナに構わず、オレは女を睨んだ。
「こんなことは止めるんだな。相手の女襲ったって、アンソニーはあんたのものにならねぇよ。欲しけりゃ、本気で口説きに行けよ。」
 言いながら、自分のことを考えてちらりと自嘲する。
 背後でアンソニーが苦笑して、ゆっくり歩いてきた。
「僕は何度も言いましたね。こんなことをする限り、僕は貴女と付き合わない、と。・・・・・そんな怖い顔をしては、美人が台無しですよ。付き合うのはともかく、僕は美人は好きです。また、僕の店に来てくださいね。」
 おいおい・・・、さんざ迷惑掛けられといて、ちゃっかり客としてはキープしとく気かよ。
「あ、アンソニー・・・・・。」
 両目に涙を溜めて女はアンソニーを見上げた。
「こんなことした私を許してくれるの・・・?」
「そーですね、こんなことしなければ・・・・・、僕はお客さんは大事にしますよ。」
「あ、わ、私、また、お店に行くわ!」
 アンソニーにうまいこと言い包められ、女は部下に目もくれず、走り去っていった。
 ふぅ、と、アンソニーが息を吐いて笑った。
「これで、依頼は果たしたな。明日、金を受け取りに行く。」
 オレは不機嫌に言ってリナを抱えたまま、アンソニーに背を向けた。
「んな、な、なに勝手に言ってんのよっ!!おーろーせー!!」
 リナが叫んでぽかぽか殴ってくるのを無視して、オレは裏通りをすたすたと歩く。
「ガウリイ!!ガウリイってば!!降ろしてったらぁ!!」
 真っ赤になって殴ってくるリナに構わず歩き、人気のないところでリナを降ろした。
 リナはなにやらぶつぶつ言っていたが、オレを見上げて硬直した。
「が、ガウリイ・・・?」
 オレの目に怒りが宿っているのが分かったのだろう。
 リナが少し怯えた顔をする。
 沈黙が2人の間に流れた。
 オレはリナを見詰めた。さっきまで、彼女はアンソニーをその瞳に映していた。
「・・・楽しかったか?」
問いかけると、リナは怒ったようにぷいっと横を向いた。
「えーえ、楽しかったわよ。アンソニーはあたしをちゃんと女扱いしてくれたし。」
 リナの返答に心が凍る。
「・・・そうか。」
 楽しかった、か・・・。
 オレ以外の男と歩いて、笑って、メシ食って、キスして。
 嫉妬も頂点へ達しようとしていた。
 オレは腕を伸ばした。
 ぎょっとしたようにリナが後退るが、丁度壁にぶつかったので、そのまま両腕を壁につき、アンソニーがしていたようにリナを逃げられないように挟み込む。
「何、すんのよ・・・。そこ、どきなさいよ。」
 睨みながら言う声は掠れていた。
 リナの身体は少し震えているようだ。
 アンソニーには抵抗しなかったくせに、オレのときには怯えるのか?
 真っ赤な顔で瞳を潤ませたリナにオレはただただ煽られる。
「〜〜な、んでっ。」
 泣きそうな声で言って、リナが睨んできた。
 紅い瞳に自分が映ったのを見つめる。
 オレの目をまともに見たリナの動きが止まった。
 オレが、怖いのか?
 リナ・・・。
 ゆっくりと顔を寄せていく。
 怯えた紅い瞳に近づいて。
 とうとう閉じてしまった紅を名残惜しく思いながら。
 掠めるように口接ける。
「んっ・・・。」
 足りない。
 深く重ねる。
 愛しんで一瞬放す。
「・・・・・やっ、んぅ・・・。」
 空気を求めて開いた唇に舌をこじ入れた。
 上顎を辿り、歯列をなぞって、見つけたリナの舌に夢中で絡めた。
 リナがもがく。
 アンソニーには抵抗していなかったことが思い出され、悔しさでオレはさらにリナを追い詰めた。
 リナの腕が徐々に力を失う。
 そうだ、抵抗なんか許さない。
 オレだけ、感じていればいい。
 リナ・・・。

 完全にリナの身体がら力が抜けたころ、よくやく唇だけ解放する。
 倒れそうなリナを易々と支えながら、彼女を腕に閉じ込める。
 リナは整わない息のまま、オレを睨み付けた。
 乱れた息で、紅い頬で、潤んだ瞳で。
睨んでも扇情的なだけだとは自覚できないんだろうな。
「・・・・なに、すんのよぉ・・・。」
 怒れる紅い瞳にオレも憤りを覚えると同時に切なくなる。
 オレとキスするのはそんなに嫌だったのか。
「アンソニーには、抵抗しなかった、だろーが・・・。」
 あいつはよくてオレは駄目なのか。
 オレの方がずっとお前の傍にいるのに。
 リナは一瞬目を見開き、そして、怒りで瞳を燃え上がらせた。

「馬鹿っ!!あれはお芝居よ!!おでこには、き、キスされた、けど・・・。口にはなかったんだからぁっ!!!!!」

「え、芝居・・・。」

 オレの頭はまっしろになった。



 side-G でした。
 嫉妬ガウのはずなんですけど、ガウ視点少ないような気がして付け足してみました。
(2005 3/5)